2019年10月下旬刊行
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余川典子
『お産の話──上野博正と新宿「めだか診療所」』
「お祭り」みたいに、みんなで赤ちゃんを待っていた
2019年10月下旬刊行
定価2,640円(本体2,400円+税)
四六判並製、208ページ
発行・発売 編集グループSURE
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余川典子『お産の話──上野博正と新宿「めだか診療所」』 刊行のごあいさつ
上野博正(1934─2002)は、東京浅草でハンコ職人の息子として育ち、東京大空襲の危難をどうにか生きのびて、苦学しながら、1977年に東京・北新宿で産婦人科・精神科・内科の「上野めだか診療所」を開業した人物です。出発当初は自宅を兼ねた2DKマンションの一室で、腕ききの産婦人科医として、パートナーである本書の著者・余川典子との二人三脚で、産まれてくる多くの赤ちゃんをとりあげました。陣痛促進剤も、エコー検査も用いず、ていねいに内診をほどこしながら、赤ちゃんが生まれてくるのを待ちうけるというやりかたでした。また、精神科医としては、ときに寝ころんだりもしながら、何時間でも患者と会話を重ねていく医師でした。
上野は、べらんめえ口調の医師でしたが、この「めだか診療所」はやや意外にも、当時のウーマンリブの思潮との共鳴関係の下にありました。ウーマンリブには、女が自身の「からだ」を大事にし、おのずとそこに働く「自然」の力を尊重するという姿勢につながっていきます。産科医としての上野には、これに共感するところがあったようです。また「上野めだか診療所」では、お産のさい、ほぼすべてのケースでパートナーの男性たちも立ち会っていたといいます。当時、こうした気風は、むしろ珍しいものだったでしょう。
本書は、そうした上野博正医師の姿を、遠慮なく、ときに辛辣な批評を含め、パートナーの余川典子の目から描き出していきます。彼女自身がウーマンリブの信条の持ち主で、また上野博正とのあいだに2児をなした女性でもありました。
また、上野博正は、哲学者・鶴見俊輔に共感するところが多く、早くから思想の科学研究会の会員であり、やがては(1990年)、雑誌「思想の科学」の発行元、思想の科学社の社長を引き受けます。さらに、上野博正の没後には、パートナーの余川典子自身が社長職を引き継いで、今日まで至っています。
本書は、まず、女性本位の「お産」のあり方を続けた、民間の一つの診療所の記録です。同時に、上野博正という激しく自己矛盾を抱えながら、民間の一医療者としての道を進んだ人物についての伝記的な証言です。また、ウーマンリブをはじめ日本の戦後社会の暮らしのなかを流れた思潮をめぐる、ひとつの貴重な精神史の叙述でもあります。
若い世代の方たちをはじめ、ゆかりの読者のみなさまに、ぜひご一読をいただきたく存じます。
2019年 神無月
編集グループSURE(代表・北沢街子)
著者・余川典子について 1945年、富山市生まれ。地元で北陸銀行に勤務するが、1974年、上京して思想の科学研究会事務局員となる。同研究会にいた上野博正と知り合い、のち2児をなす。病没した上野博正を引き継ぎ、現在、思想の科学社社長。
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